らかをこえた

法堂《ハツタウ》あけはなつ明けはなれてゐる

     大阪道頓堀

みんなかへる家はあるゆふべのゆきき

更けると涼しい月がビルの間から

今日の足音のいちはやく橋をわたりくる

     七月二十二日帰庵

ふたたびここに草もしげるまま

わたしひとりの音させてゐる

     自責

酔ざめの風のかなしく吹きぬける

鴉啼いたとて誰も来てはくれない

山羊はかなしげに草は青く

つくつくぼうし鳴いてつくつくぼうし

降れば水音がある草の茂りやう

     庵中独坐

こころおちつけば水の音

ひらひら蝶はうたへない

ぬれててふてふどこへゆく

大いに晴れわたり大根二葉

何おもふともなく柿の葉のおちることしきり

柚子の香のほのぼの遠い山なみ

にぎやかに柿をもいでゐる

     千人風呂

はだかで話がはづみます

からむものがない蔓草の枯れてゐる

米とぐところみぞそばのいつとなく咲いて

墓場あたたかうしててふてふ

山ふところの、ことしもここにりんだうの花

けさは涼しいお粥をいただく

     結婚したといふ子に

をとこべしをみなへしと咲きそろ
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