いなかつたこともあつたやうに)。そして老来ますます惑ひの多いことを感じないではゐられない。かへりみて心の脆弱、句の貧困を恥ぢ入るばかりである。
[#地から1字上げ](昭和十年十二月二十日、遠い旅路をたどりつつ 山頭火)


   柿の葉


[#ここから5字下げ]
昭和十年十二月六日、庵中独坐に堪へかねて旅立つ
[#ここで字下げ終わり]

水に雲かげもおちつかせないものがある

     生野島無坪居

あたたかく草の枯れてゐるなり

旅は笹山の笹のそよぐのも

     門司埠頭

春潮のテープちぎれてなほも手をふり

     ばいかる丸にて

ふるさとはあの山なみの雪のかがやく

     宝塚へ

春の雪ふる女はまことうつくしい

あてもない旅の袂草こんなにたまり

たたずめば風わたる空のとほくとほく

     宇治平等院 三句

雲のゆききも栄華のあとの水ひかる

春風の扉ひらけば南無阿弥陀仏

うららかな鐘を撞かうよ

     伊勢神宮

たふとさはましろなる鶏

     魚眠洞君と共に

けふはここに来て枯葦いちめん

麦の穂のおもひでがないでもない

     浜
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