てふてふもつれつつかげひなた

もう枯れる草の葉の雨となり

くづれる家のひそかにくづれるひぐらし

     病中 五句

死んでしまへば雑草雨ふる

死をまへに涼しい風

風鈴の鳴るさへ死のしのびよる

おもひおくことはないゆふべの芋の葉ひらひら

傷が癒えゆく秋めいた風となつて吹く

秋風の水音の石をみがく

萩が径へまでたまたま人の来る

月へ萱の穂の伸びやう

旅はゆふかげの電信棒のつくつくぼうし

つきあたれば秋めく海でたたへてゐる


 題して『雑草風景』といふ、それは其中庵風景であり、そしてまた山頭火風景である。
 風景は風光とならなければならない。音が声となり、かたちがすがたとなり、にほひがかをりとなり、色が光となるやうに。

 私は雑草的存在に過ぎないけれどそれで満ち足りてゐる。雑草は雑草として、生え伸び咲き実り、そして枯れてしまへばそれでよろしいのである。

 或る時は澄み或る時は濁る。――澄んだり濁つたりする私であるが、澄んでも濁つても、私にあつては一句一句の身心脱落であることに間違ひはない。

 此の一年間に於て私は十年老いたことを感じる(十年間に一年しか老
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