い工場地帯のけむり

あたたかなれば木かげ人かげ

住みなれて藪椿いつまでも咲き

あるがまま雑草として芽をふく

ぬくうてあるけば椿ぽたぽた

風がほどよく春めいた藪と藪

ほろにがさもふるさとの蕗のとう

ゆらいで梢もふくらんできたやうな

山から白い花を机に

ある日は人のこひしさも木の芽草の芽

人声のちかづいてくる木の芽あかるく

伸びるより咲いてゐる

草のそよげば何となく人を待つ

ひとりたがやせばうたふなり

花ぐもりの窓から煙突一本

ひつそり咲いて散ります

枇杷が枯れて枇杷が生えてひとりぐらし

照れば鳴いて曇れば鳴いて山羊がいつぴき

空へ若竹のなやみなし

身のまはりは草だらけみんな咲いてる

ころり寝ころべば青空

何を求める風の中ゆく

草を咲かせてそしててふちよをあそばせて

青葉の奥へなほ径があつて墓

それもよからう草が咲いてゐる

月がいつしかあかるくなればきりぎりす

木かげは風がある旅人どうし

日の光ちよろちよろとかげとかげ

月のあかるさがうらもおもてもきりぎりす

     樹明君に

あんたが来てくれさうなころの風鈴

炎天の稗をぬく

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