途上に於ける私の真実をうたつた作であるが、現在の私としては前句を捨てて後句を残すことにする。

 私はやうやく『存在の世界』にかへつて来て帰家穏坐とでもいひたいここちがする。私は長い間さまようてゐた。からだがさまようてゐたばかりでなく、こころもさまようてゐた。在るべきものに苦しみ、在らずにはゐないものに悩まされてゐた。そしてやうやくにして、在るものにおちつくことができた。そこに私自身を見出したのである。
 在るべきものも在らずにはゐないものもすべてが在るものの中に蔵されてゐる。在るものを知るときすべてを知るのである。私は在るべきものを捨てようとするのではない、在らずにはゐないものから逃れようとするのではない。
『存在の世界』を再認識して再出発したい私の心がまへである。
 うたふものの第一義はうたふことそのことでなければならない。私は詩として私自身を表現しなければならない。それこそ私のつとめであり同時に私のねがひである。
[#地から1字上げ](昭和九年の秋、其中庵にて 山頭火)


   雑草風景


柿が赤くて住めば住まれる家の木として

みごもつてよろめいてこほろぎかよ

日かげいつ
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