おわかれの水鳥がういたりしづんだり

燕とびかふ旅から旅へ草鞋を穿く

     名古屋同人に

もう逢へますまい木の芽のくもり

乞ひあるく水音のどこまでも

     木曾路 三句

飲みたい水が音たててゐた

山ふかく蕗のとうなら咲いてゐる

山しづかなれば笠をぬぐ

     飯田にて病む 二句

まこと山国の、山ばかりなる月の

あすはかへらうさくらちるちつてくる


 山行水行[#「山行水行」に傍点]はサンコウスイコウとも或はまたサンギヨウスイギヨウとも読まれてかまはない。私にあつては、行くことが修することであり、歩くことが行ずることに外ならないからである。

 昨年の八月から今年の十月までの間に吐き捨てた句数は二千に近いであらう。その中から拾ひあげたのが三百句あまり、それをさらに選り分けて纏めたのが以上の百四十一句である。うたふもののよろこびは力いつぱいに自分の真実をうたふことである。この意味に於て、私は恥ぢることなしにそのよろこびをよろこびたいと思ふ。

  あるけばきんぽうげすわればきんぽうげ
  あるけば草の実すわれば草の実
 この二句は同型同曲である。どちらも行乞
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