なだが乳房もあらはに
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 九月壱日[#「九月壱日」に二重傍線]

晴、八朔、二百十日の厄日である、関東大震災十週年、何といふおだやかさ。
七時から十時まで岡枝及び田部行乞、それから歩む、小月は行乞しないで、清末のところ/″\を行乞する、疳癪がおきてしようがないから酒屋で一杯いたゞきたいといふたらお断り、カリウチは出来ませんといふ、それでは鉄鉢へ入れて貰ひましよう、酒の出したのがありません、といつたやうな問答、いよ/\疳の虫がおさまらない、やつと或る酒屋で一杯ひつかけると、すぐおさまつた、まことに酒は疳の妙薬でありまする。
ぶらりだらりと長府町へはいつて裏道を歩いてゐたら、ひよつこり黎々火君に出逢つた、偶然にしてはあまりに偶然すぎるが、訪ねてゆく途上で出逢ふたのはうれしい、さあ、ようこそと迎へられて、まず入浴、そして、つめたいうまい水を腹いつぱい飲むことは忘れなかつた。
かういふ家庭の雰囲気にひたると、家庭といふものがうらやましくなる。……
心づくしのかず/\の御馳走になる。
明月、涼風、籐椅子、レコード、物みなよろし。
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  行乞所見

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