しなかつたが、三里を三時間かゝつて、十時から十一時まで西市行乞、行乞相はよくなかつたが、所得はよかつた、私は西市に頭を下げなければならない。
五時、田部の藤本屋といふ安宿に泊つた、よい意味で、また、わるい意味で、安宿の代表的なものであつた、この宿でも一室一燈一張の主人であることができた。
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今日の所得(銭――九十六銭、米――二[#「二」に「マヽ」の注記]十二銭)
今晩の御馳走(烏賊のさしみ、馬鈴薯の煮付、茄子漬瓜漬)
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今日の行程(麦川から西市まで三里、多くは山路)
西市から田部まで二里、多くは平地。
・朝の水音のかな/\
・はるかにかな/\の山の明けたいろ
・岩ばしる水をわたれば観世音立たせたまふ
・住めば住まれる掘立小屋も唐黍のうれてゐる
・ひよつこり家が花がある峠まがれば
大嶺炭坑索道
・炭車が空を山のみどりからみどりへ
萩に萩さき山蟻のゆきき
・坑口《マブ》から出てきてつまぐりの咲いてゐる家
・かるかや、そのなかのつりがねさう
・あすは二百十日の鴉がたたかうてゐる
・妻子に死なれ死を待つてゐる雑草の花
・秋暑いをん
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