きた稲の穂風で
・月のあかるさはそこらあるけば糸瓜のむだ花
・それからそれと考へるばかりで月かげかたむいた
・虫の音のふけゆくまゝにどうしようもないからだよこたへて
・いつまでもねむれない月がうしろへまはつた
・うらもおもても秋かげの木の実草の実
・人が通らない秋暑い街で鸚鵡のおしやべり
   述懐ともいふべき二句
・酔へなくなつたみじめさをこうろぎが鳴く
・ねむれない秋夜の腹《おなか》が鳴ります
   追加
 へちまに朝月が高い旅に出る
[#ここで字下げ終わり]

 九月九日[#「九月九日」に二重傍線]

晴、朝日がまぶしく机のほとりまで射しこむ。
休養読書。
芸術の母胎は何といつても情熱[#「情熱」に傍点]である、そして芸術家は純一[#「純一」に傍点]と冒険[#「冒険」に傍点]とを持つてゐなければならない。
午後、郵便局へいつて端書を書く(その万年筆を忘れてきた、年はとりたくないものだ!)、帰途、工場に冬村君を訪ね、それから学校に樹明君を訪ねる、樹明君が奢るといふので、酒と豆腐とを買うて戻つた、重かつたが苦にはならなかつた。
学校からすぐ樹明君がやつてくる、ほろ/\酔ふ、どうでも湯
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