――(山頭火第二句集自序)――
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私は酒が好きなやうに水が好きである。
これまでの私の句は酒(悪酒でないまでも良酒ではなかつた)のやうであつた、これからの私の句は水(れいろうとしてあふれなくてもせんせんとしてながれるほどの)のやうであらう、やうでありたい。
この句集が私の生活と句境とを打開してくれることを信じてゐる、淡として水の如し、私はそこへ歩みつゝあると思ふ。
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・何か落ちたる音もしめやかな朝風
   追加二句
・なんとうつくしい日照雨ふるトマトの肌で
・夾竹桃さいて彼女はみごもつてゐる
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 七月十七日[#「七月十七日」に二重傍線]

夢のない眠り、千金にも値する快眠だつた。
毎日暑いことである、夕立がきさうでこない、ばら/\と日照雨。
街へ買物にちよつと出たが汗でびつしよりになつた、石油十銭、醤油七銭、眼鏡四十五銭、……酒まではまはらない。
茄子胡瓜、胡瓜茄子ばかり食べてゐる。
野菊(嫁菜の花)が咲きはじめた、トマトも色づいてきた。
らつきよう一升十銭、その手入で午後はつぶれた。
夕は
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