そよがうともしないかなかな
・山をまへに昼虫の石に腰かける
・山ほとゝぎす解けないものがある
・おのが影のまつすぐなるを踏んでゆく
・炎天の影の濃くして鉄鉢も
・石に腰かけて今日のおべんたう
 遠雷すふるさとのこひしく
・水音の青葉のいちにち歩いてきた
・けふいちにちの汗をながすや蜩のなくながれ
・雷鳴が追つかけてくる山を越える
・日照雨ふる旅の法衣がしめるほどの
・かげは松風のうまい水がふき
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ぢつとしてゐることは――暑中閑坐は望ましくないこともないが――それは、今の私には、生活上で、また精神的にも許されない。
一衣一鉢、へう/\として炎天下を歩きまはるのである。
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・山の鴉はけふも朝からないてゐる
・手紙焼き捨てるをお湯が沸いた
・風の枯木をひらふては一人
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戻るなり、水を汲み胡瓜を切り御飯を炊く、いやはや忙しいことである、独居は好きだけれど寂しくないこともない、たゞ酒があつて慰めてくれる、南無日本酒[#「日本酒」に傍点]如来である。
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水と酒と句(草本塔[#「草本塔」はママ]に題す)
 
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