さい。
ひとりこそ/\茄子を焼く、ほころびを縫ふ糸がなかなか針の穴に通らない、――人の知らない老境だ。
青い風、涼しい風、吹きぬける風。
四時すぎ、案の如く樹明君がやつてきてくれた、そして驚くべき悲報をもたらした。――
緑石君の変死! 私は最初どうしても信じられなかつた、そして腹が立つてきた、そして悲痛のおもひがこみあげてきた。
緑石君はまだ見ぬ友[#「まだ見ぬ友」に傍点]のなかでは最も親しい最も好きな友であつた、一度来訪してもらふ約束もあつたし、一度徃訪する心組でもあつた。
それがすべて空になつてしまつた。
海に溺れて死んだ緑石、――私はいつまでもねむれなかつた。
樹明君とビールを飲みながら緑石君の事を話し合つた、どんなに惜しんでも惜しみきれない緑石君である、あゝ。
樹明君が帰つてから、ひとりでくらやみで、あれやこれやといつまでも考へてゐた、……寝苦しかつた。
人生は笑へない喜劇か、笑へる悲劇か、泣笑の悲喜劇であるやうだ。
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   ※[#丸中黒、1−3−26]酒に関する覚書(二)
酒中逍遙、時間を絶し空間を超える。
飲まずにはゐられない酒[#「飲まずにはゐられな
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