はじまる
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 六月廿五日[#「六月廿五日」に二重傍線]

明けゆく空、朝風はよいかな。
郵便――うれしいたより、私は郵便によつて唯一の社会的交渉を保つてゐる。
蔬菜の手入れ、トマトと茄子とは上出来、胡瓜と大根とは不出来、しかし、楽在其中で、趣味第一、実用第二である。
△「嘘をいはない」ではまだ浅い、「嘘がいへない」まで深くならなければならない。
△梅干の味[#「梅干の味」に傍点]、それは飯の味、水の味につぐものだ、日本人としてそれが味へなければ、日本人の情緒は解らない。
△無一物底無尽蔵は観念[#「観念」に傍点]として解つてゐるだけだが、無一物中無関心[#「無一物中無関心」に傍点]は体験として解つてゐる。
△人情的なもの[#「人情的なもの」に傍点]を私からとりのぞかなければならない。
久しぶりに入浴、湯はよいかな。
此頃の私はおちついて[#「おちついて」に傍点]ゐるよりも、むしろしづんで[#「しづんで」に傍点]ゐるらしい。
飯のうまさ、眠りのよろしさ、――これだけでも私は幸福だ。
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・南天の花へは蜂がきてこぼす
・前田も植ゑて涼しい風
 
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