身のつらさを味ふ。
赤いシンパとして獄中にある河上肇博士の告白にうたれた。
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辿りつき振り返り見れば山川を
   越えては越えて来つるものかな(博士作)
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炎天下の青田をいたはりそだてゝゐる農夫を眺めて、お百姓の心[#「お百姓の心」に傍点]の尊さを痛感する。
夕方の汽車で来てくれた緑平老を駅に迎へた、うれしかつた、酒を二本頂戴する。
樹明来、鶏肉を持参。
夜、冬村来、蝮蛇に咬まれたといふので、みんな騷いださうであるが、私はうまいうれしい酒にすつかり酔ひつぶれてちつとも知らなかつた。
ふと眼がさめる、あたりを見まはすと、明けはなつた部屋の蚊帳の中に、緑平老とならんで寝てゐる! ありがたかつた。
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・炎天のましたをアスフアルトしく
・胡瓜の手と手と握りあつた炎天
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 七月九日[#「七月九日」に二重傍線]

晴、晴れるにきまつてゐる、晴れなければならないのだ!
早朝、白船老が来てくれた。
やがて樹明君、つゞいて黎々火君来庵。
清談、閑談、俳談、其中庵空前の――敢て絶後とはいひきらない――賑やかさ喜ば
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