来て下さつた、ありがたい。
大山さんと清水さんとは十二時に山口へ立たれた、お土産を頂戴したゞけで何のお構ひも出来なかつた、まことにすまない。
終日臥床、何年ぶりの服薬だらう、こんなに苦しんだことは近来にないことだ。
ぞんぶんに吐瀉したので、身心清浄[#「身心清浄」に傍点]になつたやうに感じる、そして飲食物に対して恬淡になつたやうにも感じる。
雨がふつた、ふつた、どしやぶりだつた。
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・みんな去んでしまへば水音
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七月四日[#「七月四日」に二重傍線]
午前は曇、午後は晴。
今朝も樹明君が見舞つてくれた。
水音を聴きつゝ臥床、食慾減じて心気安らかなり。
からりと晴れた夕空、はじめてみん/\蝉[#「みん/\蝉」に傍点]が鳴いた。
よろ/\と庵のまはりをあるく、雑草のうつくしさがあたらしく身にしみる。……
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・あんな[#「な」に「マヽ」の注記]が来てくれる大根もふとうなつてゐる(緑平老に)
・腹がいたいみんみん蝉
・夕焼しづかな糸瓜に棚をこしらへる
・死にそこなつた、こうろぎがもうないてゐる
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