の味は水のそれとおなじ、冷暖自知、いひがたし。
野の花はどれもうつくしい、をどりこ草を活ける、露草がもう咲いてゐた。
敬治君、約束の如く来庵、予感の如く樹明君も来庵、よい酒をのんだ、うまい、うまい。
樹明君早く帰る、敬治君と私とは街へ出て、米を買ひ、ビールを飲んで戻つて寝た、めでたし、めでたし、ほんにめでたやなあ!
夜ふけて飯を炊いて食べる。――
螢がとぶ、とばない螢がこゝそこ。
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・てふてふひらひらおなかがすいた
・けふは水ばかりのむ風のふく
 わたしの胡瓜の花へもてふてふ
 花にもあいたかてふてふもつれつつ
・障子ひらけば竹に雀の前景がある
・むしあつく蟻は獲物をだいてゐる
・ひとりでたべるとうがらしがからい
・萱の穂も風が畳をふきぬける
・どなた元[#「た元」に「マヽ」の注記]気で夏畑の人や虫や
・ひらくより蝶が花のうへ
 ……………(これは酔線なり、今日の)
[#ここで字下げ終わり]

 六月三十日[#「六月三十日」に二重傍線]

ほとんど徹夜した、敬治君はよく眠つてゐる。
曇、すこし朝焼、多少の風。
昨夜はやつぱり飲みすぎだつた、私は女難を知らないけれど
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