酒難[#「酒難」に傍点]は知りぬいてゐる。
今朝、それこそほろりと歯がぬけた、ぬけさうでぬけなかつた歯が。
敬治君が睡眠の足つた上機嫌で県庁へ出張する、私はひとりしづかに読書、『唯物辨證本[#「本」に「マヽ」の注記]読本』
裏山で自殺者が見つかつたといふ、もう腐つて骨になつてゐたさうだが、情死[#「情死」に傍点]だといふ、どこの男か、どんな女か、――それは話題でなくて問題だ[#「話題でなくて問題だ」に傍点]。
たま/\人がきた、それは掛取だつた! 皮肉といへば皮肉である。
蟷螂《カマキリ》の子は可愛い、油虫の子には好感が持てない。
客車便で小さい荷物が来た、森さんからの贈物、桑名の名物、時雨蛤[#「時雨蛤」に傍点]である、ありがたい、うれしい、敬治君と共に味ふ、一杯やりたいな、桑名の殿さん[#「桑名の殿さん」に傍点]でもうたひたいな。
敬治君といつしよに入浴、帰途、米を買うて貰つた、焼酎を飲ませて貰つた、ほろ/\ほろ/\、ぐつすりと寝た。
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・草苺ほのかに朝の水がたゝへ(改作)
・青葉のむかういちはやくカフヱーの灯
咲いてゐる花を見つけてきてゐるてふてふ
・草の
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