く晴れてきた桐の花
・いちじくの葉かげがあるおべんたうを持つてゐる
[#ここで字下げ終わり]
五月十八日[#「五月十八日」に二重傍線]
雨、曇、そして晴。
昨夜はよい一夜だつた、ありがたい一夜だつた。
下松まで二里、五時間あまり行乞する。
妙見社参詣、溜池に重なりあつてゐる亀はあはれであつた、人間の利己的信仰の具象[#「人間の利己的信仰の具象」に傍点]である。
それから一里ばかり歩いて、先日、米を預けてをいた宿に泊る、村の宿[#「村の宿」に傍点]とでもいはうか、若葉につゝまれて水にのぞんでゐる、よい宿であつたが、同宿の酔漢がうるさかつた。
白蛇[#「白蛇」に傍点]――純白でなくて黄色を帯びてゐた――を見た、あまりよい気持はしなかつた。
同宿のお遍路さんの軽口のなかに、――
[#ここから2字下げ]
水はいやお茶はにがいし
酢醤油の外に飲みたいものがある
[#ここで字下げ終わり]
その飲みたいものは、さて何でせう!
[#ここから1字下げ]
村の宿の印象
水のいろ、若葉のかげ
遍路の世間話、酔ひどれの口説
亭主の強さ、おかみさんの深切
空は晴れてゆく風のさわやか
木賃料三十銭
前へ
次へ
全25ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング