しさの酔うてくる
 これからどこをあるかう雨がふりだした
 ずんぶりぬれて青葉のわたし
  室積松原の宿
木賃料  三十銭
米五合  十一銭
   中ノ上といふところ、
   飯が少ない、
   すこしうるさい、
  今日の行乞所得
米  八合
銭  九銭
[#ここで字下げ終わり]

 五月十七日[#「五月十七日」に二重傍線]

霧雨、ぼうとして海も山も見えない。
松原の宿[#「松原の宿」に傍点]といふ気分はよかつた。
早朝、合羽を着て出立、島田を経て呼坂へ、そして勝間へ、行程六里。
薊が咲きつゞいてゐた、要の若葉が美しかつた。
呼坂の附近を行乞壱時間。
旧友井生君を訪ねて旧情を温めた、十年振の再会、話しても話しても話しつきない、君のよさに触れてうれしかつた。
君の祖父君は風雅人だつたといふ、さすがに家構も庭園も調度も趣味的に整頓してゐる。
[#ここから2字下げ]
・霧雨のしつとりと松も私も
 茨がもう咲いてゐる濁つた水
・ふつたりやんだりあざみのはなだらけ
・あやめあざやかな水をのまう
 なにがなしラヂオに雑音のまじるさへ
・晴れさうな水が湧いてゐる
・うごいて蓑虫だつたよ
 やうや
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