物の泥を落すのに苦心した、やかましくいふ人がゐないやうに、やさしくしてくれる人もゐない。
神保さんがくる、豆腐屋さんがくる、今日は賑やかだつた。
物資缺乏、もう塩までなくなつてしまつた、明日はどうでも山口行乞をしなければなるまい。
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青葉から電燈線へ蜘蛛の囲
大盃の梅の花を飲む(冬村新婚宴)
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 五月廿八日[#「五月廿八日」に二重傍線]

曇、……行乞は見合せる。……
旧暦の端午である、在来の年中行事は旧暦でないと、季節的に本当でない、したがつて、気分的にも気乗がしない。
朝から、神保さんがやつてきて茶摘みに精出してゐる。
朝は塩気なしですましたが、昼は前のF家から茶碗に一杯の醤油を借りて菜葉を煮る(神保さんが借りてきてくれた、多謝々々)。
昼御飯の仕度をしてゐるところへ、樹明君さうらうとしてやつてくる、酒はつゝしむべきかなと私を悲しませる、そして私をして学校の給仕を通して奥さんに嘘を吐かなければならないやうにした!
昼寝は悪くないけれど、今日の昼寝は長すぎた。
夕方また雨となつた。
寝て起きた樹明君がおとなしく――みすぼらしく帰つた、お
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