に傍点]だつた。
[#ここから2字下げ]
・あけたてもぎくしやくとふさいでゐる
・雀がころげる草から草へ
・によこりと筍こまかい雨ふる
・雨ふるあやめで手がとゞかない
・葉かげ黒い蝶
・ほきりとたんぽゝの折れてゐる花
・青葉の雨のしんかんと鐘鳴る
・壁に夜蜘蛛がぴつたりとうごかない
[#ここで字下げ終わり]
△酒についての覚書の一つ、――
うまい酒、酔ふ酒であらねばならない、にがい酒、酔はない酒であつてはならない。

 五月廿六日[#「五月廿六日」に二重傍線]

曇、后晴れて風が出た、時々雨がふつた。
御飯を炊いてゐると、聞き覚える[#「る」に「マヽ」の注記]のある、そして誰とも思ひだせない声がする、出て見たら、意外にも義庵老師であつた、上京の帰途、立ち寄られたのである、いろ/\話してゐるうちに熊本がなつかしうなつた。
お茶もないし、何も差上げるものがないので、S店へ走つてビールと鑵詰と巻鮨とを借りて来て、朝御飯を食べて貰つた。
八時の汽車に間にあふやう、駅近くまで見送つていつた。
樹明君がやつてきて、冬村新婚宴はいよ/\今晩だといふ、うんと飲んで面白く騷がう。
もう米がなくなつたから
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