い友達の一人――の新居を訪ねる、井戸を掘つてゐる、よい水が湧いて出るといつて喜んでゐる、掘つた穴の底には水が溜つて、そして蛙がもう二三匹飛び込んでゐる、これが文字通りの井底蛙[#「井底蛙」に傍点]だ。
暑い、暑い、貧乏は暑いものだと知つた。
貧乏はとう/\切手を貼らない手紙をだす非礼を敢てせしめた、それを郵便集配夫がわざ/\持つてきて見せた厚意には汗が流れずにはすまなかつた、それでなくても暑くてたまらないのに、――そしてまた、次のやうな嫌味たつぷりの句を作らないではゐられなかつた。
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・炎天のポストへ無心状である
・貧しさは水を飲んだり花を眺めたり
□
・炎天、夫婦となつて井戸も掘る
・掘ればよい水が湧く新所帯で
□
すゞしくなでしこをつんであるく
[#ここで字下げ終わり]
昔――といつても徳川時代――には大酒飲を酒桶とよんださうな、酒が飲めない酒好きは徳利になりたがる、酒桶には及びもないが!
長い暑い一日がやうやく暮れて、おだやかな夕べがくる、茶漬さら/\掻きこんで出かける、どこへといふあてもない、何をしようといふのでもない、訪ねてゆく人もなけ
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