水瓜ごろりと垣の中
・虫のゆききのしみじみ生きてゐる
    □
・朝の木にのぼつてゐる
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 七月廿三日

土用らしい土用日和である、暑いことは暑いけれど、そこにわだかまり[#「わだかまり」に傍点]がないので気持がよい。
隣室のお客さん三人は私の同郷人だ、純粋なお国言葉をつかうてゐる、彼等と話しあつてゐると、何だか血縁のものに接してゐるやうな気がする(私としては今のところ、身上をあかしたくないから、同郷人であることが暴露しないやうに警戒しなければならない)。
当地には温泉情調といつたやうなものはあまりたゞようてゐない、むろん、私には入湯気分といつたやうなものはないが。
今日も私はいやしい私[#「いやしい私」に傍点]を見た、自分で自分をあはれむやうな境地は走過しなければならない。
子供はうるさいものだとしば/\思はせられる、此宿の子はちよろ/\児でちつとも油断がならない、お隣の子は兄弟妹姉そろうて泣虫だ、競争的に泣きわめいてゐる、子供といふものはうるさいよりも可愛いのだらうが、私には可愛いよりもうるさいのである。
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   (山水経)[#「(
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