乞、そのおかげで手紙を差出すことが出来た。
安岡町まで行くつもりだつたが、からだの工合がよくないのでひきかへした、暑さのためでもあらうが、年のせい[#「せい」に傍点]でもあらうて。
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  (草木塔)[#「(草木塔)」は底本では、俳句の上に横書き]
・朝早い手を足を伸ばしきる
・伸ばしきつた手で足で朝風
・いちりん咲いてゐててふてふ
・あつさ、かみそりがようきれるかな
[#ここで字下げ終わり]
物を粗末にすれば物に不自由する[#「物を粗末にすれば物に不自由する」に傍点](因果応報だ)、これは事実だ、少くとも私の事実[#「私の事実」に傍点]だ!
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・夏のゆふべの子供をほしがつてゐる
・墓へも紫陽花咲きつゞける
[#ここで字下げ終わり]

 七月廿二日

朝曇、日中は暑いけれど朝晩は涼しい、蚊がゐなければ千両だ。
感情がなくなれば人間ぢやない、同時に感情の奴隷とならないのが人間的だらう。
さみしくいらだつからだへ蠅取紙がくつついた、句にもならない微苦笑だつた。
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・泣いてはなさない蝉が鳴きさわぐ
・何やら鳴いて今日が暮れる

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