山水経)」は底本では、俳句の上に横書き]
・のびのびてくさのつゆ
・つゆけくもせみのぬけがらや
・事がまとまらない夕蝉になかれ(此一句は事実感想そのまゝである)
[#ここで字下げ終わり]
夕食後、M老人を訪ねて、土地借入證書に捺印を頼んだら、案外にも断られた、何とかかとか言訳は聞かされたけれど、然諾を重んじない彼氏の立場には同情すると同時に軽蔑しないではゐられなかつた、それにしても旅人のあはれさ、独り者のみじめさを今更のやうに痛感したことである。
これで造庵がまた頓挫した、仕方がない、私は腰を据えた、やつてみせる、やれるだけやる、やらずにはおかない。……
敬治さん、幸雄さんのたよりはほんとうにうれしかつたのに!
今日は暑かつた、華氏九十七度を数へた地方もあるといふ、しかし私はありがたいことには、樹木の多い部屋で寝ころんでゐられるのだから。
幸雄さんの供養で、焼酎を一杯ひつかける、饅頭を食べる、端書を十枚差出すことが出来た。

 七月廿四日

今日も暑からう、すこし寝過した、昨夜の今朝で、何となく気分がすぐれない。
野の花を活けた、もう撫子が咲いてゐるが、あの花には原始日本的情趣[#「原
前へ 次へ
全131ページ中64ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング