ありがたい品物が到来した、それはありがたいよりも、私にはむしろもつたいないものだつた、――敬治君の贈物、謄写器が到来したのである、それは敬治君の友情そのものだつた、――私はこれによつてこれから日々の米塩をかせぎだすのである。
今夜も千鳥がなく、虫がなく。……

 七月十三日

雨、雨、雨、何もかもうんざりしてゐる、無論、私は茶もなく煙草もなく酒もなくてぼんやりしてゐるが。
正法眼蔵啓迪「心不可得」の巻拝読。
白雲去来、そして常運歩(其中庵は如何)。
とう/\我慢しきれなくなつて、おばさんからまた金二十銭借る、それを何と有効につかつたことか――郵券二銭一枚、ハガキ二枚、撫子一包、そして焼酎一合!
私もどうやらかうやらアルコールから解放[#「アルコールから解放」に傍点]されさうだ、といつて、カルモチンやアダリンはまつぴら/\。
午後、ぶら/\歩いて、谷川の水を飲んだり、花を摘んだりした、これではあまりに安易すぎる、といつて動くこともできない、すこしいら/\する。
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・ひとりなれば山の水のみにきた
・山の仏には山の花
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 七月十四日

曇、ま
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