しいからである。
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・ふたゝびこゝに花いばら散つてゐる
・この汽車通過、青田風
・旅の法衣がかわくまで雑草の風
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夜は妙青寺の真道長老を訪ねて暫時閑談、雪舟庭の暗さから青蟇の呼びかけるのはよかつた、螢もちらほら光る、すべてがしづかにおちついてゐる。
正法眼蔵啓迪を借りて戻る、これはありがたい本であり、同時におもしろい本である(よい意味で)。
また不眠だ、すこし真面目に考へだすと、いつも眠れなくなる、眠れなくなるやうな真面目は嘘だ、少くとも第二義的第三義的だ。
しかし不眠のおかげで、千鳥の声をたんまりと聴くことができた。
どこかそこらで地虫もないてゐる、一声を長くひいてはをり/\なく、夏の底の秋を告げるやうだ。

 七月十二日

雨、降つたり降らなかつたりだが、小月行乞はオヂヤンになつた、これでいよ/\空の空になつた。
啓迪[#「啓迪」に傍点]を読みつゞける、元古仏の貴族的気禀[#「元古仏の貴族的気禀」に傍点]に低頭する。……
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・なく蠅なかない蠅で死んでゆく
・長かつた旅もをはりの煙管掃除です
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