訪ねる、初対面の好印象、しばらく話した、桑の一枝を貰つてステツキとする、久しぶりにうまい水を頂戴する、水はいゝなあ、先日来、腹中にたまつてゐたものがすーつと流れてしまつたやうにさへ感じた。
人は人中[#「人は人中」に傍点]、田は田中[#「田は田中」に傍点]、といひますから……とは老人の言葉だつた。
此宿も一日二日はよかつたが、三日四日と滞在してゐると、だん/\アラが見えてくる、だいたい嬶天下らしいが、彼女はよいとして亭主なるものは人好きの悪い、慾張りらしい、とにかく好感の持てるやうな人間ぢやない。
今夜も睡れない、ちよつと睡つてすぐ覚める、四時がうつのをきいて湯にはいる、そして下らない事ばかり考へる、もしこゝの湯がふつと出なくなつたら、……といつたやうな事まで考へた。
杜鵑がなく、『その暁の杜鵑』といふ句を想ひだした、私はまだ/\『合点ぢや』と上五をつけるほど落ちついてゐない。
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・梅雨雲の霽れまいとする山なみふるさと
仲よく連れて学校へいそぐ梅雨ぐもり
・どこまでも咲いてゐる花の名は知らない
・晴れきつた空はふるさと
旅から旅へ河鹿も連れて
更けて流れる水
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