七月一日 木下旅館。
雨、終日読書、自省と克己と十分であつた、そして自己清算の第一日(毎日がさうだらう)。
伊東君に手紙を書く、愚痴をならべたのである、君の温情は私の一切を容れてくれる。
私は長いこと、死生の境[#「死生の境」に傍点]をさまようてゐる、時としてアキラメに落ちつかうとし(それはステバチでないと同時にサトリではない)時として、エゴイズムの殻から脱しようとする、しかも所詮、私は私を彫りつゝあるに過ぎないのだ。……
例の如く不眠がつゞく、そして悪夢の続映だ! あまりにまざ/\と私は私の醜悪を見せ[#「見せ」に傍点]つけられてゐる、私は私を罵つたり憐んだり励ましたりする。
彼――彼は彼女の子であつて私の子ではない――から、うれしくもさみしい返事がきた、子でなくて子である子、父であつて父でない父、あゝ。
俳句といふものは――それがほんとうの俳句であるかぎり――魂の詩だ[#「魂の詩だ」に傍点]、こゝろのあらはれ[#「こゝろのあらはれ」に傍点]を外にして俳句の本質はない、月が照り花が咲く、虫が鳴き水が流れる、そして見るところ花にあらざるはなく、思ふところ月にあらざるはなし、この境涯
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