加して飲んだがうまくなかつた。
たしかにアルコールに対する執着がうすらぎつゝある、酒を飲まないのでなくて飲めなくなるらしい、うれしくもあり、かなしくもあり、とはこのことだ。
捨てられて仔猫が鳴きつゞけてゐる、汝の運命のつたなきを鳴け、といふ外ない。
新聞配達の爺さんが、明日からは魚も持つてまゐりますから買うて下さいといふ、新聞と生魚!
調和しないやうで調和してゐると思ふ。
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・待つてゐるさくらんぼ熟れてゐる
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 六月廿六日 同前。

曇、近郊散策、気分よろし、御飯がうまい、但し酒はうまくない、これも人生の悲喜劇一齣だらう。
蚤はあたりまへだが、虱のゐたのにはちよいと驚いた、蠅や蚊はもちろん。
今日は日曜日なので一夜泊り、或は一日遊びの浴客がちらほら歩いてゐる、あまりモダンぶりのものは見うけない、こゝにインバイがゐないやうに(カフヱーの女給や芸妓のエロサービスは知らないが)、それはこゝにふさはしいお客さんばかりだ。
妙青禅寺の本堂で、観世流の謡会があつた、日本的でよいと思ふけれど、ほんたうの味は解らない。
青龍園――妙清[#「清」に「マヽ」
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