借入のために、いひかへれば、保證人に対して私の身柄について懸念ないことを理解せしめるために、――妹に、彼に、彼女に、――私の死病と死体との処理について。――
欝々として泥沼にもぐつたやうな気分だ、何をしても心が慰まない、むろん、かういふ場合にはアルコールだつて無力だ、殊に近頃は酒の香よりも茶の味はひの方へ私の身心が向ひつゝあることを感じてゐる(それは肉体的な、同時に、精神的なものに因してゐると思ふ)。
六月廿五日 同前。
晴后曇、梅雨の或る日は、といつたやうな気分。
朝焼はうつくしかつた(それは雨を予告するのだが)、自然のうつくしさが身心にしみいるやうだつた。
朝、青草――壺に投※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]すために――五六本を摘んだ、露も蜘蛛もいつしよに。
燕の子が、いつのまにやら巣立つてゐる、それらしいのがをり/\軒端近く来ては囀づる。
水田もまた、いつのまにやら、いちめんの青田となつてゐる、そして蛙が腹いつぱいの声でうたうてゐる。
生きのよい鯖が一尾八銭だつた、片身は刺身、片身は塩焼にして食べた、おいしかつた、焼酎一合十一銭、水を倍
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