昨夜来の風雨がやつと午後になつてやんだ、青葉が散らばり草は倒れ伏してゐる。
水はもう十分だが、この風では田植も出来ないと、お百姓さんは空を見上げて嘆息する。
私にはうれしい手紙が来た、それはまことに福音であつた、緑平老はいつも温情の持主である。
自分でも気味のわるいほど、あたまが澄んで冴えてきた、私もどうやら転換するらしい、――左から右へ、――酒から茶へ[#「酒から茶へ」に傍点]!
何故生きてるか、と問はれて、生きてるから生きてる[#「生きてるから生きてる」に傍点]、と答へることが出来るやうになつた、此問答の中に、私の人生観も社会観も宇宙観もすべてが籠つてゐるのだ。
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 これで田植ができる雨を聴きつゝ寝る
・いたゞきは立ち枯れの一樹
・蠅がうるさい独を守る
・ひとりのあつい茶をすゝる
・花いばら、こゝの土とならうよ
[#ここで字下げ終わり]

 六月廿二日 同前。

晴曇さだめなし。
小串へゆく、もう夾竹桃が咲いてゐた、松葉牡丹も咲いてゐた。
あんまり神経がいらだつので飲んだ、そして飲みすぎた、当面の興奮はおさまつたが、沈衰がやつてきた、当分また苦しみ悩む外ない
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