笑へない喜劇、泣けない悲劇、それが私の生活ではないか。
寺領借入の交渉が頓挫した、時々一切を投げだしたいやうな気分になる、こんなにまでして庵居しなければならないのか。……
子供はほんたうに騷々しい、耳をふさいでゐた。
[#ここから2字下げ]
 夫婦で親子で畑の草とる
・握つてくれた手のつめたさで葉ざくら
・ひとりをれば蠅取紙の蠅がなく
[#ここで字下げ終わり]

 六月廿三日 同前。

空模様のやうに私の心も暗い、降つたり照つたり私の心も。……
ふりかへらない私[#「ふりかへらない私」に傍点]であつたが、いつとなくふりかへるやうになつた、私の過去はたゞ過失の堆積、随つて、悔の連続[#「悔の連続」に傍点]だつた、同一の過失、同一の悔をくりかへし、くりかへしたに過ぎないではないか、あゝ。
払ふべきものは払つた、といつてはいひすぎる、払へるだけは払つた[#「払へるだけは払つた」に傍点]。
多少、ほがらかになつたやうである。

 六月廿四日 同前。

やうやく晴となつた。
妹から心づくしの浴衣と汗の結晶とを贈つてくれた、すなほに頂戴する。
血は水よりも濃いといふ、まつたくだ、同時に血は水よ
前へ 次へ
全131ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング