やはや、よく泣く、泣く、誰よりも、それが私に徹[#「徹」に「マヽ」の注記]える、困る、ほんたうに困る。
笠から蜘蛛がぶらさがる、小さい可愛い蜘蛛だ、彼はいつまで私といつしよに歩かうといふのか、そんなに私といつしよに歩くことが好きなのかよ。
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・梅雨の満月が本堂のうしろから
・傾いた月のふくろうとして
    □
 けふから田植をはじめる朝月
・朝の虫が走つてきた
・朝月にもう一枚は植ゑてしまつた
・炎天の影ひいてさすらふ
 さみしい道を蛇によこぎられる
[#ここで字下げ終わり]
今夜は行乞所得で焼酎を買ふことが出来た(十方の施主、福寿長久であれ、それにしても浄財がそのまゝアルコールとなりニコチンとなることは罰あたりである)、そしてほろ[#「ほろ」に傍点]/\酔ふた(とろ[#「とろ」に傍点]/\まではゆけなかつた、どろ[#「どろ」に傍点]/\へは断じてゆかない)。

 六月廿日 同前。

雨、梅雨もいよ/\本格的になつた、それでよい、それでよい、終日閉ぢ籠つて読書する、これが其中庵だつたら、どんなにうれしいだらう、それもしばらくのしんぼうだ、忍辱精進、その事、その事
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