る、参道の杉並木、山門の草葺、四面を囲む青葉若葉のあざやかさ、水のうつくしさ、――それは長く私の印象として残るだらう。
田植を見て『土落し』を思ひだした、それは私が少年時代、郷里の農家に於ける年中行事の一つであつた、一日休んで田植の泥を落すのである、何といふ、なつかしい思出だらう。
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・朝戸あけるより親燕
・こゝもそこもどくだみの花ざかり
・水田たゝへようとするかきつばたのかげ
・梅雨晴れの山がちゞまり青田がかさなり
・つゝましくこゝにも咲いてげんのしようこ
    □
・お寺まで一すぢのみち踏みしめた
・うまい水の流れるところ花うつぎ
・山薊いちりんの風がでた
・水のほとり石をつみかさねては(賽の河原)
 霽れて暑い石仏ならんでおはす
 夏草おしわけてくるバスで
[#ここで字下げ終わり]
昨日も今日もまたサケナシデー、すこし切ない。
近頃、ひとりごと[#「ひとりごと」に傍点]をいふやうになつた、年齢の加減か、独居のせいか、何とかいふ支那の禅師の話を思ひだしておかしかつたり、くやしかつたりしたことである。

 六月十九日 同前。

曇、時々照る、歩けば暑い、汗が出
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