ないもの」に傍点]、気取つていへば、在るもの[#「在るもの」に傍点]をそのまゝ人間的に活かすのである。
いつぞやは、缺げた急須を拾うて水入とし、空罎[#「罎」に「マヽ」の注記]を酢徳利とした、平ぺつたい石は文鎮に、形の好きなのを仏像の台座にした。
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・冴える眼に虫のいろ/\
・山ほとゝぎすいつしか明けた
・朝風、みんなうごく
・しめやかな山とおもへば墓がある
・春蝉に焼場の灰のうづたかく
□
・よう泣く子につんばくろ
□
・いつまで生きよう庵を結んで
・ありつたけ食べて出かける(行乞)
・食べるものもなくなつた今日の朝焼
楠の森三句
注連を張られ楠の森といふ一樹
・大楠の枝から枝へ青あらし
・大楠の枝垂れて地にとゞく花
□
・蜂のをる花を手折る
・田植唄もうたはず植ゑてゐる
・ひつかけようとする魚のすい/\澄んで
・梅雨の月があつて白い花
[#ここで字下げ終わり]
六月十五日 同前。
午前は晴、午後は雨、これでどうやら本格的な梅雨日和となつた訳だ、空梅雨ではあるまいかと心配してゐた農夫の顔に安心と喜悦との表情が浮んでゐる、私も
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