残忍と畜生の弱さだ。
夕方散歩する、いそがしい麦摺機の響、うれしさうな三味の音と唄声。
今日はいやにゲイシヤガールがうろ/\してゐる。
私の因縁時節到来[#「私の因縁時節到来」に傍点]! 緑平老へ手紙を書きつゝ、そんな感じにうたれた。
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ふたゝびこゝで白髪を剃る
どうでもこゝにおちつきたい夕月
・朝風の青蘆を切る
□
・これだけ残つてゐるお位牌ををがむ
□
・あるだけの酒のんで寝る月夜
・吠えてきて尾をふる犬とあるく
・まとも一つの灯はお寺
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昨夜は幾夜ぶりかでぐつすり眠つたが、今夜はまた眠れないらしい、ゼイタク野郎め!
若夫婦の睦言が、とぎれ/\に二階から洩れてくる、無理もない、彼等は新婚のほや/\だ。
どうしてもねむれないから、また湯にはいる、すべてが湯にとける、そしてすべてがながれてゆく。……
六月十一日 同前。
快晴、明日は入梅だといふのに、これはまた何といふ上天気だらう、暑い陽がきら/\照つた。
農家は今が忙しい真盛りだ、麦刈、麦扱(今は発動機で麦摺だが)、やがてまた苗取、田植。
しかし今年はカラツユかも
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