ために井師のともされた提灯が照つてゐた。……

 六月九日 同前。

晴、といつても梅雨空、暗雲が去来する。
今日は寺惣代会が開かれる日だ、そして私に寺領の畠を貸すか貸さないかが議せられる日だ。
昨夜もあまり睡れなかつたので、頭が重い。
アルコールよりカルモチン――まつたくさういふ気分になりつゝある、飲まないのではない、飲めなくなつたのだ(肉体的に)、意志が弱いと胃腸が強い、さりとはあんまり皮肉だつたが、その皮肉も真実[#「真実」に傍点]になつたらしい、少くとも事実[#「事実」に傍点]にはなつた、健全な胃腸は不健全な飲食物を拒絶する!
年をとると、身体のあちらこちらがいけなくなる、私は此頃、それを味はひつゝある。
川棚温泉には犬が多い、多すぎる。
野を歩いてゐたら、青蘆のそよいでゐるのに心をひかれた、こんなにいゝものがあるのに、何故、旅館とか料理屋とかは下らない生花に気をとられてゐるのだらう、もつたいない、明早朝さつそく私はそれを活けやう。
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・柿の葉柿の実そよがうともしない
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 六月十日 同前。

晴、めづらしい晴だつたが、それだけ暑か
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