]、しかもさみしうない[#「しかもさみしうない」に傍点]といふ語句を用ひたい。
椿の木の多いところ、その花がぽとり/\と心をうつことだらう。柿の木も多い、此頃は枝もたれんばかりに実をつけてゐる、山手柿[#「山手柿」に傍点]といつて賞味されるといふ。
彼岸花も多く咲いてゐる、家のまはりはそこもこゝも赤い。
樹明は竹格子を造り、冬村は瓦を葺く、そして山頭火は障子を洗ふ。
樹明、冬村共力して、忽ちのうちに、塵取を作り、箒を作り、何やらかやら作つてくれた。
電燈がついてから、竹輪で一杯やつて別れた(こゝはまさに酒屋へ三里、豆腐屋へ二里の感じだ)。
[#ここで字下げ終わり]
私はそれからまた冬村君に酒と飯とをよばれた、実は樹明兄に昼食として私の夕飯を食べられてしまつたのである。
四日ぶりに入浴、あゝくたびれた。
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 月にほえる犬の声いつまでも
・朝の雲朝の水にうつり
・水に朝月のかげもあつて
・水音のやゝ寒い朝のながれくる
・朝寒の小魚は岸ちかくあつまり
 仕事のをはりほつかり灯つた
・秋風の水で洗ふ
[#ここで字下げ終わり]
其中庵には次のやうな立札を建つべきか、――
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歓迎葷酒入庵室
[#ここで字下げ終わり]
或は又、――
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酒なき者は入るべからず
[#ここで字下げ終わり]
労働と酒とのおかげで、ぐつすり寝た、夢も見なかつた、このぐらゐ熟睡安眠したことはめつた[#「めつた」に傍点]にない。
留守に誰か来て、待つて、そして帰つたやうだなと思つたら、それは先刻別れた樹明兄だつた、……樹明兄はしばらくして、またやつて来られたさうな、そしたら山頭火が酔つぱらつて寝言をいつてゐたさ[#「さ」に「マヽ」の注記]うさうな、……私は知らない!

 九月十九日

天地清明、いよ/\本格的秋日和となつた、働らくにも遊ぶにも、山も野も海も空も、すべてによろしいシーズンだ、よくぞ日本に生れける[#「よくぞ日本に生れける」に傍点]、とはこの事だ。
子規忌、子規はゑらかつた(私としてはあの性格はあまり好きでないけれど)、革命的俳人としては空前だつた、ひとりしづかに彼について、そして俳句について考へた、床の花瓶には鶏頭が活けてあり、糸瓜は畑の隅にぶらさがつてゐる。
朝から其中庵へ、終日掃除、掃いても掃いても、拭いても拭いてもゴミが出る。
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