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夕方から其中庵へ出かける、樹明兄が冬村、二三雄その他村の青年と働いてゐられる、すまないと思ふ、ありがたいと思ふ、屋根も葺けたし、便所も出来たし、板敷、畳などの手入も出来てゐる、明日からは私もやつて出来るだけ手伝はう、手伝はなければ罰があたる、今日まで、私自身はあまり立寄らない方が却つて好都合とのことで、遠慮してゐたが、まのあたり諸君の労作を見ては、もう私だとてぢつとしてはゐられない、私にも何か出来ないことはない。
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・まづたのむ柿の実のたわわなる
暮れて戻つて秋風に火をおこす
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今夜もよい月である、月はいろ/\の事を考へさせる、月をひとりで眺めてゐると、いつとなし物思ひにふけつてゐる、それはあまりに常套的感傷だけれど、私のやうな日本人としては本当である、しんじつ月はまことなるかな[#「しんじつ月はまことなるかな」に傍点]。
九月十七日
晴、うすら寒いので、とう/\シヤツをきた、ことに三時にはもう起きてゐたのだから、――うつくしい月だつた、月光流とはかういふ景情だらうと思つた。
朝から其中庵へ出かける(飯盒そのものを持つて)、大工さんへ加勢したり、戸外を掃除したり、室内を整理したりする、近来にない専念だつた。
樹明さんから、ポケツトマネー(五十銭玉一つ)頂戴、それでやうやく煙草、焼酎にありつく。
夜、さらに同兄と冬村君と同道して来訪、話題は其中庵を離れない、明日は大馬力で其中庵整理、明後日入庵の予定。
これで、私もやつとほんとうに落ちつけるのである、ありがたし、/\。
じつさい寒くなつた、朝寒夜寒、障子をしめずにはゐられないほどである。
秋、秋、秋、今年は存分に秋が味はへる。……
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月のひかりのながれるところ虫のなくところ
・山の端《ハ》の月のしばし雲と遊ぶ
□
・なつめたわゝにうれてこゝに住めとばかりに(其中庵即時)
□
・またも旅するふろしきづつみが一つ(改作)
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九月十八日
晴、すこし風があつた。
満洲事変一週[#「週」に「マヽ」の注記]年記念日、方々で色々の催ほしがある。
私は朝から夕まで一日中其中庵で働らいた。
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庵は山手《ヤマテ》山の麓、閑静にして申分なし、しづかで[#「しづかで」に傍点
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