んどうにぼつねんとしてゐると、旅愁といふよりも人生の悲哀に近いものを感じる、私はかういふ旅に慣れてゐるから、かういふ宿にかへつて気安さを感じるが(そこをねらつてわざと泊つたのでもあるが)普通の人々――我々の仲間はとても一夜どころか一時間の辛抱も出来まい。
今日は県界を越えた、長崎から佐賀へ。
どこも花ざかりである、杏、梨、桜もちらほら咲いてゐる、草花は道べりに咲きつゞいてゐる。
食べるだけの米と泊るだけの銭しかない、酒も飲めない、ハガキも買へない、雨の音を聴いてゐる外ない。
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 お地蔵さんもあたたかい涎かけ
 汽車が通れば蓬つむ手をいつせいにあげ
・何やら咲いてゐる春のかたすみに
・明日の米はない夜《ヨル》の子を叱つてゐる(ボクチン風景)
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此宿はほんたうにわびしい、家も夜具も食物も、何もかも、――しかしそれがために私はしづかなおちついた一日一夜を送ることが出来た、相客はなし(そして電燈だけは明るい)家の人に遠慮はなし、二階一室を独占して、寝ても起きても自由だつた、かういふ宿にはめつたに泊れるものでない(よい意味に於てもわるい意味に於ても)
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