『聖人に夢なし』『聖人には悔がないから』
自分が与へられるに値しないことを自覚することによつて行乞がほんたうになります。
ルンペンのよいところは自由! 主観的にも客観的にも。――
失職コツクと枯草に寝ころんで語つた!

 三月八日[#「三月八日」に二重傍線] 晴曇、行程三里、川上、藤見屋(投込四〇・下)

神崎町行乞、うれしい事もあり、いやな事もあつた、私はあまり境に即しすぎてゐる。
途中、な[#「な」に「マヽ」の注記]ぐれコツクに話しかけられて、しばらく枯草の上で話す、不景気風はどこまでも吹いてゆく。
川上といふところは佐賀市から三里、電車もかゝつてゐる、川を挾んだ遊覧地である、水も清く土も美しい、好きな場所である、春から秋へかけてはいゝだらうと思ふ。
宿はよくない、たゞ気安いのが何よりだ、アグラをかいて飲んだ、酒はよかつた。
同宿四人、その一人は旅絵師で川合集声といふ老人、居士ともいふべき人物で、私が旅で逢つた人の中で最も話せる人の一人だつた、話が面白かつた。
執行(シユギヨウ)といふ姓、尼寺(ニイジ)といふ地名を覚えてゐる。
句が出来なくなつた、出来てもすぐ忘れてしまふ。


前へ 次へ
全150ページ中65ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング