、行程五里、九十四間の自然石段に一喝され、古びた仁王像(千数百年前の作ださうな)に二喝された、土間の大柱(楓ともタブともいふ)に三喝された、そして和尚のあたゝかい歓待にすつかり抱きこまれた。
一見旧知の如し、逢うて直ぐヨタのいひあひこが出来るのだから、他は推して知るべしである。
いかにも禅刹らしい(緑平老はきつと喜ぶだらう)、そしていかにも臨済坊主らしい(それだから臭くないこともない)。
遠慮なしに飲んだ、そして鼾をかいて寝た。
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・父によう似た声が出てくる旅はかなしい
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今日はほんたうにうらゝかだつた、枯葦がびつくりしてそよいでゐた、私のやうに。
フトン薄くてフミンに苦しむ、このあたりはどこの宿でも掛蒲団は一枚(好意でドテラをくれるところもあるが)。
をんな山、女らしくない、いゝ山容だつた。
馬神隧道といふのを通り抜けた、そして山口中学時代、鯖山洞道を通り抜けて帰省した当時を想ひだして涙にむせんだ、もうあの頃の人々はみんな死んでしまつた、祖母も父も、叔父も伯母も、……生き残つてゐるのは、アル中の私だけだ、私はあらゆる意味に於て残骸だ!

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