連歌俳句研究所、何々庵何々、入門随意といふ看板を見た、現代には珍らしいものだ。

 一月九日 曇、小雪、冷たい、四里、鐘ヶ崎、石橋屋(中)

とにかく右脚の関節が痛い、神経痛らしい、嫌々で行乞、雪、風、不景気、それでも食べて泊るだけはいたゞきました。
今日の行乞相はよかつたけれど、それでも/\時々よくなかつた、随流去[#「随流去」に傍点]! それの体現まで行かなければ駄目だ。
此宿はわるくない、同宿三人、めい/\勝手な事を話しつゞける、政変についても話すのだから愉快だ。
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・暮れて松風の宿に草鞋ぬぐ
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同宿のとぎやさんから長講一席を聞かされる、政治について経済について、そして政友民政両党の是非について、――彼は又、発明狂らしかつた、携帯煽風器を作るのだといつて、妙なゼンマイをいぢくつたり図面を取りちらしたりしてゐた、専売特許を得て成金になるのだといつて逆上気味だつた、彼に反して同宿の薬屋さんはムツツリヤだつた、彼は世間師同志の挨拶さへしなかつた。
昨夜はちゞこまつて寝たが、今夜はのび/\と手足を伸ばすことが出来た、『蒲団短かく夜は長し』。

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