[#「 」に「マヽ」の注記] (三〇・下)
ぢつとしてゐられなくて、俊和尚帰山まで行乞するつもりで出かける、さすがにこのあたりの松原はうつくしい、最も日本的な風景だ。
今日はだいぶ寒かつた、一昨六日が小寒の入、寒くなければ嘘だが、雪と波しぶきとをまともにうけて歩くのは、行脚らしすぎる。
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・木の葉に笠に音たてゝ霰
・鉄鉢の中へも霰
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こゝの湯銭三銭は高い、神湊の弐銭があたりまへだらう、しかし何といつても、入浴ほど安くて嬉しいものはない、私はいつも温泉地に隠遁したいと念じてゐる、そしてそれが実現しさうである、万歳!
この宿もよくない、ボクチンには驚ろくほどのちがひがある、すまないと思ふほど優遇してくれるところもあれば、木石かと思ふほど冷遇するところもある、ボクチンのいゝところは、独善主義でやりぬけるところだらう。
同宿の二人の朝鮮人のうち、老鮮人は風采も態度もすべて朝鮮人的で好きだつた、どうぞ彼の筆が売れるやうに。
もう一人の同宿者もおもしろかつた、善良な世間師だつた、相当に物事を知つてる人だつた、早くから床を並べて話し続けた。
途上で、
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