やつと謄写刷が出来た、元寛居を訪ねて喜んで貰ふ、納本、発送、うれしい忙しさ。
入浴して煙草を買ふ、一杯ひつかける。……
生きるとは味ふこと[#「生きるとは味ふこと」に傍点]だ、物そのものを味ふとき生き甲斐を感じる、味ふことの出来ないのが不幸の人だ。
鰯三百目十銭、十四尾あつたから一尾が七厘、何と安い、そして何と肥えた鰯だらう。

 一月廿九日[#「一月廿九日」に二重傍線] 降つて曇つて暖かい、すつかり春だ。

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 犬を洗つてやる爺さん婆さんの日向
・鶏を殺して鶏臭い手を清めてゐる
[#ここで字下げ終わり]
夕方、三八九第一集を持つて寥平さんを訪ねる、例の如く飲む、最初は或る蕎麦屋で、しかしそこはヱロ味ぷん/\だから、さらに一日本店で飲み直す、そして最後はタクシーで送られる。
寥平居で、重錐時計といふものを見た、床しい印籠も見た、そして逢へば飲み、飲めば酔ふた次第である。

 一月三十日[#「一月三十日」に二重傍線]

宿酔日和、彼女の厄介になる、不平をいはれ、小言をいたゞく、仕方ない。
夜は茂森さんを訪ねる、そして友情にあまやかされる。

 一月三十一日[#「一
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