、ほんたうにしづかな時間が流れてゆきます、自分自身の寝床――たとへそれはどんなにみすぼらしいものであつても――を持つてゐることが、こんなにも身心をおちつかせるかと、自分ながら驚いてをります、ちようど、一茶が長年待ち望んでゐた家庭を持つた時のよろこびもこんなだつたらうと、ひとりで微苦笑を禁じえませんでした。……』
ぶら/\歩いてゐるうちに、酒が飲みたくなつて、飲むだけの十銭は持つてゐたので、一杯ひつかけた、漬物、皿、炭、等々を買つたら、もう財布には一銭銅貨四枚しか残つてゐない。
ルンペンは一夜の契約だが、今の私は来年の十五日までは、こゝにゐることが出来る、米と炭と数の子と水仙と白足袋とを買つたら、それこそおめでたいお正月だ!(餅はすでに貰つた。酒も貰へるかも知れない、乞食根性をだすなよ)
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月の葉ぼたんへ尿してゐる
誰もが忙しがつてる寒月があつた
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三八九の原稿を書くのに、日記八冊焼き捨てゝしまつたので困つた、しかし困つても、焼き捨てたのはよかつたらう、――過去は一切焼き捨てなければ駄目だから、――放下了也。

 十二月卅日[#「十二月卅日」
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