が、私には可もなく不可もなし、どちらかといへばよい方である、何となくゆつくりしてゐておちついてゐられるから。
また主人公も妻君も上手はないが好人物だ、内証もよいらしく、小鳥三十羽ばかり飼うてゐる、子がないせいでもあらうけれど。
坊主枕はよかつた、こんな些事でもうれしくて旅情を紛らすことができる、汽車の響はよくない、それを見るのは尚ほいけない、こゝからK市へは近いから、一円五十銭の三時間で帰れば帰られる、感情が多少動揺しても無理はなからうぢやないか。
夜もすがら水声が聞える、曽良の句に、夜もすがら秋風きくや裏の山、といふのがあつたやうに覚えてゐるが、それに同じて
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夜をこめて水が流れる秋の宿
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同宿の老人はたしかに変人奇人に違ひない、金持ださうなが、見すぼらしい風采で、いつも酒を飲み本を読んでゐる。
十一月七日[#「十一月七日」に二重傍線] 曇、夕方から雨、竹田町行乞、宿は同前。
雨かと思つてゐたのに案外のお天気である、しかし雨が近いことは疑はなかつた、果して曇が寒い雨となつた。
九時から四時まで行乞、昨年と大差はないが、少しは少ないが
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