、米が安いのは的確にこたえる、やうやく地下足袋を買ふことができた、白足袋に草鞋が好きだけれど、雨天には破れ易くてハネがあがつて困るから、感じのよいわるいをいつてはゐられない。
こゝの唐辛の砂糖煮、味噌汁、煎茶はうまい、九州ほど茶を飲むところは稀だが、私も茶飲み連中の一人となつてしまつた。
今日の行乞相も及第はたしかだ、行乞相がいゝとかわるいとかいふのは行乞者が被行乞者に勝つか負けるかによる、いひかへれば、心が境のために動かされるか動かされる[#「る」に「マヽ」の注記]かによる、随処為主の心境に近いか遠いかによる(その心境になりきることは到底望めない、凡夫のあさましさだ、同時に凡夫のよさだ、ともいへやう)。
町の酒屋で二杯ひつかけたので、ほろ/\酔うた、微酔の気地[#「地」に「マヽ」の注記]は何ともいへない、しかしとかく乱酔泥酔になつて困る、もつともさうなるだけ酒がうまいのだが!
今夜も夜もすがら水音がたえない、階下は何だか人声がうるさい、雨声はトタン屋根をうつてもわるくない、――人間に対すれば憎愛がおこる、自然に向へばゆう/\かん/\おだやかに生きてをれる。
月! 芋明月も豆明月も過ぎ
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