お布施とは反比例してゐた、また造り酒屋で一杯ひつかけた、安くて多かつたのはうれしかつた、そこからこゝまでの二里の山路はよかつた、丘から丘へ、上るかと思へば下り、下るかと思へば上る、そして水の音、雑木紅葉――私の最も好きな風景である、ずゐぶん急いだけれど、去年馴染の此宿へついたのは、もう電燈がついてからだつた、すぐ入浴、そして一杯、往生安楽国!
竹田は蓮根町といはれてゐるだけあつてトンネルの多いのには驚ろく、こゝへくるまでにも八つの洞門をくゞつたのである。
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・すこしさみしうてこのはがきかく(元寛氏、時雨亭氏に)
・あなたの足袋でこゝまで三十里(闘牛児氏に)
百舌鳥ないてパツと明るうなる
・飯のうまさもひとりかみしめて
・最後の一粒を味ふ
・名残ダリヤ枯れんとして美しい
犬が尾をふる柿がうれてゐる
腰かける岩を覚えてゐる
・よろ/\歩いて故郷の方へ
・筧あふるゝ水に住む人なし
枯山のけむり一すぢ
かうして旅の山々の紅葉
・ゆきずりの旅人同志で話つきない
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此宿はよいといふほどではない、まあ中に位する、或る人々は悪いといふかも知れない
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